私から見れば、少佐は甘い。

私もかつては少佐と呼ばれ慕われたものだが、協力者を受け入れることはすれども拒否した者を説得し引き入れるなどという回りくどい真似はしなかった。

拒否し反抗するなら脅すか、消すまで。

大多数は後者だったか。

しかしその甘さと理想の高さ故なのか、誠実さをもって行動する彼女に仲間が集っていく。

少佐と同じヒューマンは勿論のこと、ヒューマンと因果関係にあったというトゥーリアン、クォリアン、クローガン、更には有機生命体の敵とも思われていたゲスすら、自分達の戦力に加えてしまった。

我々プロセアンには考えもつかなかった異種族の結束。

一度リーパーの驚異を目にした私でさえこの状況には、もう絶望を覚えない 。

…ただ、原始種族のヒューマンに希望を与えられたという事実は、少々癪ではある。



「…少佐?」


気まぐれにノルマンディーのデッキ2を歩いていたところ、早足でライフサポート室へ入る少佐を目撃した。

あの部屋は誰も使っていないというのに何を急いでいたのか。

少しの好奇心から部屋へ近づくと、扉越しに聞き慣れない息遣いが聞こえた。

聞き慣れないが、ヒューマンの生理機能と神経のスキャンをして知っている。

少佐は、泣いていた。

知性のある有機生命体ならば感情で涙を流すことは生理現象であって、問題視には至らない。

が、あれほど強い光を宿した目で私を見る少佐が、女々しく泣いている姿は想像し難かった。

少佐が女であるにも関わらず。


「少佐」


好奇心を抑えられず部屋に踏み入ると、机に臥せった少佐の背中が跳ねた。


「…ジャヴィック?悪いけど今は一人に…」

「司令官たるもの部下に情けない姿を晒すな。お前には艦長室があるだろう」

「…ええ。ごめんなさい。ついふと思い出してしまって」

「……死者のことか?」

「……そう」


涙ぐんだ声で肯定する少佐の背中は、任務中のものと比べて遥かに小さく見えた。

そこでようやく気付く。

これも脆弱なヒューマンの女なのだと。

英雄、銀河の希望、暗闇に差す一筋の光、周りから如何に評価されようと、これは一匹の生き物に過ぎないのだ。

だというのに皆はこれを神か何かのように頼り、当てにして期待を押し付ける。


「…ジャヴィック?」

「…」


無意識に、私の掌は目の前の小さな背中に当てられていた。

流れてくるのは見慣れない異星人どもの最期、その中には「モーディン」の姿もあった。


「彼らは自らの命をもって我々に機会(チャンス)と勝利の可能性を与えた。我々がリーパー共を倒してこそ彼らは報われる」

「でも、ただ殺された子供だっているのよ」

「お前の"勝たねば"という決心を強めた。違うか?」

「……そう、かもしれないわね。ありがとう…」

「次の任務までにその腑抜けた背中を正しておけ」

「わかってる」


少佐の返答に頷き部屋をあとにする。

貨物室へ戻る道中、妙なことに掌の感触がいつまでも残っていた。






いつものことですが書く度に「違う!」ってなります。

ジャヴィックさんのロマンスが欲しいです。

シェパ子に好意が芽生えて戸惑うジャヴィックさんを書きたかったのにどうしてこうなった…