ジャヴィックはシタデルのベンチに足を組んで座っていた。
ここからはウェルタ記念病院を見上げることができる。
彼が病院を出てから程なくして、ロビーに見知った顔がぞろぞろ入っていくのがこちらから見えた。
今頃、シェパードの病室はお祭り騒ぎになっているに違いない。
彼女の困惑と喜びが手に取るように想像できて、いつの間にかジャヴィックの頬は緩んでいた。
彼の口角は常に下がっているので、口がへの字から真っ直ぐになっただけだが。
「嬉しそうなのに何故出ていったんです?もう少しいてあげてもよかったのに」
「騒がしいのは好かん」
視線を上に向けていたので、彼は横から来るリアラに気付かなかったようだ。
緩んでいた口元がすぐいつもの形に戻る。
「ああ…照れているのですね?」
「違う。お前こそ出るのが早いのではないか?」
「私はこれから仕事があるので…名残惜しいですが。それと、シェパードがあなたに来て欲しがってましたよ」
「もう充分通っただろう」
鈍い。
でまかせなのかもしれないが、乙女心を全くわかっていない彼にリアラは思わずため息をつく。
「女性というのは、目覚めた時は愛しい人に、そばにいてもらいたいのですよ。特にこういうときは」
「…アサリは単性だろう?」
「でも気持ちくらいはわかります」
「…」
ジャヴィックが病院を見上げる。
見ればクルー達が病院から出ていくところだった。
彼らの渋った顔を見る限り、どうやら医者に追い出されたようだ。
一呼吸置いて、諦めたような声が出る。
「頃合いだな」
「あら…タイミングを計っていたんですね」
ようやく、と腰を上げたジャヴィックにリアラが一声かけた。
「そういえば、あのときの質問ですが…答えは"NO"ではなく"YES"ということにして構いませんよね?」
「……」
かつて地獄を生き、5万年も眠っていた彼の心は冷えきっていた。
それがシェパードという存在のお陰で、少しずつ暖められている。
そう感じられて、リアラは微笑んだ。
「………ああ」
去り際の彼の返答は、彼女にはいくらか優しく聞こえた。
目が覚めたと思ったらあっという間に大騒ぎになり、そしてあっという間に静かになってしまったので、シェパードは少し寂しかった。
けれど会いたい顔にたくさん会えたので、その顔は幸せそうである。
次は少人ずつでお願い、と言っておいたが、誰が来てくれるだろう、一番気になる顔はどこにいるのだろうと考え始めていた。
その時、病室のドアが開く。
「!…ふふ、まさかあなただとはね」
「…?」
入るなり笑われたジャヴィック首をかしげる。
「次に入ってくるのは誰だろうと考えてたの。そして貴方の事もね」
「…そうか」
素っ気ない返事で、ジャヴィックは彼にとっての定位置に、彼女にとっては予想外の位置に座った。
「…すぐ帰っちゃうのかと思った」
「望むならそうするが」
「ううん、そこにいて。…ねえ、ずっと見守ってくれてたって聞いたんだけど」
病室がクルーでぎゅうぎゅうになる前、リアラにジャヴィックの事を聞いたら、可笑しそうに教えてくれたのだ。
けれどシェパードはどうにも信じられなかったので、本人に聞いてみた。
結果、ジャヴィックは顔をしかめた。
が、否定をしない様子でシェパードは確信する。
「うそ…本当なのね?」
「違うと言って欲しかったか?」
「まさか。…ありがとう、とても嬉しいわ」
礼を言われると、彼のしかめっ面は変わらないどころか強くなってしまった。
照れているらしい。
敢えてシェパードは指摘しないでおいた。
「皆元気そうでよかったわ。歩けるようになるのが楽しみ。リアラがプロセアンの旅についてきてほしいって」
「フン、旅というより英雄訪問になるな」
「いいじゃない、楽しそう。…ああそうだ、」
思い出したようにシェパードがジャヴィックの手を取った。
「大分待たせちゃったけど、約束は忘れてないわよ」
"お前が全ての生命体に英雄として語られる時、この手がお前に触れている未来を誓え"
あの時、地球で彼女の手を引き寄せ、ジャヴィックが言った言葉。
リーパーに勝利し、生きて帰れと約束していた。
「……いや、まだだ。あれはお前が自分の足で立っているという前提で言った」
「あらそう。じゃあリハビリを頑張るわ…練習も付き合ってくれる?」
「…」
黙秘は是。ジャヴィックはまさにそうらしい。
彼のしかめ面がこんなに嬉しく思える日が来るなんて、とシェパードはしみじみ思った。
「ね、もう少しこっちに来て」
「…?」
ジャヴィックが枕のすぐ横へ椅子を引いた。
「もう少し」
立ち上がって、少し屈む。
「…もう少し」
額がくっつきそうなくらい近くへ。
わかったくせに、とシェパードが彼の肩を引き寄せた。
また!ブログの妄想とリンクさせてしまいました。
あと書いてて思ったんですけど、シタデルの復興早すぎじゃ?
まあ細かいことは気にしないでください←
ジャヴィシェパだとリアラは二人の娘か妹的な感じになるといいなーと思いました。